言うまでもなく人は互いに譲り合って生きているんだけれど、親しくても譲りきれないと衝突してしまいます。

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ぼくがまだ20代で車の運転に慣れていなかったころ、年配の上司を助手席に乗せて取引先に向かうことがありました。

それほど広くない道の横断歩道に差し掛かると、一人の女の子が立っています。小学4年生ぐらいでしょうか。

きっと渡りたいんだなと思って一旦停止しましたが、少女は渡る素振りを見せません。

あれ、渡らないのかな。遠慮してるのかな。と思いながらぼくは再びアクセルを踏みます。すると同時に少女が横断歩道を渡り始めたではありませんか。

まぁタイミングが合わなかったというか、こういうことってよくありますよね。

ぼくはアクセルから足を離しましたが、結局、車が動き出してしまったのを見て女の子が「どうぞどうぞ」というジェスチャーで譲ってくれました。

小学生に譲ってもらうなんて恥ずかしいと思いながらも、タイミングが合わなかったんだからしょうがない!なんて心の中で言い訳していると、年配上司が優しく一言。

「譲るときは、徹底的に譲るんです。」

そのとおりだと思いました。

一度譲ると決めたら、女の子が渡るまで待ち続ければ良かったんですよね。

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考えてみるとこの言葉、人間関係にも大いに当てはまると思います。

譲らないと、事故になっちゃうんですよね。

「オレは絶対に譲らない」なんて人はもちろん毎日大事故だと思いますが、そうでなくても「徹底的に」譲らなかったがために事故が起こることもあります。

たとえば職場で同僚に親切に接すると決めていても、何か気に障ることがあるとカッとなってしまったり。友だちに対してもそうです。

譲っているようで譲ってないんですよね。

そしてその最たるものが夫婦だと思います。

近しい間柄だからこそ譲りきれないことがある。

大切な存在なのに、小さなことでムッとなったりします。

でも考えてみれば、ぼくたちは配偶者と人生を共に歩むと決めたとき、相手を幸せにする、すべてを譲ると決意したはず。

いつも感謝を忘れず、徹底的に譲りたいものです。

人生をかけて徹底的に譲る。

あの年配上司も、まさか自分の一言が夫婦論に発展しているとは思っていないでしょう。